序章:真のワイヤレス10年の進化の壁
10年前、完全ワイヤレスイヤホンはまだ新しい概念だった。当初の目的は“ケーブルからの解放”であり、ユーザーが最も直感的に感じていた不便を解決することだった。しかし市場競争が激化するにつれ、各メーカーは同じ方向へ走り出した——より強力なBluetoothプロトコル、より長いバッテリー寿命、より小型の筐体、より華やかなデザイン。
だが、ユーザーが本当に求めていた核心的な課題は、いまだ完全には解決されていない。音質は依然として有線イヤホンに及ばず、バッテリーへの不安も残り、プロフェッショナルな現場では遅延が致命的な問題となる。完全ワイヤレスイヤホンは「利便性は上がったが、専門性を失った」中途半端な段階に陥っていた。
この行き詰まりを打破する存在として注目されているのが“デュアルモードイヤホン”である。それはワイヤレスの進化形であると同時に、有線への回帰でもある。その代表的な一例が、日本の名門オーディオブランド Nakamichi(ナカミチ) が手掛けた Elite TWS700ANC だ。
デュアルモードの意義:単なる「端子追加」ではない
オーディオ分野において「デュアルモード」という概念自体は新しくない。しかし、それを完全ワイヤレスに適用することにはまったく異なる意味がある。
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一般ユーザーにとって:ワイヤレスでは自由と快適さを、有線では安定性と長時間使用の安心を得られる。
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オーディオファンにとって:完全ワイヤレスでありながら、初めて IEM(インイヤーモニター)に迫る潜在力を持つ。ケーブルを挿した瞬間、それは“ポータブルツール”から“ハイファイ機器”へと姿を変える。
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業界にとって:単一シーンからマルチシーンへの進化を意味し、イヤホンが「消費電子製品」から「トータルオーディオソリューション」へと進化する。
つまり、デュアルモードとは単なる機能追加ではなく、イヤホンという製品形態そのものの再構築である。
製品例:Nakamichi Elite TWS700ANC の実践
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ブランドと伝統
Nakamichi と聞けば、多くの人が80〜90年代に名を馳せた高級カセットデッキやハイエンドオーディオを思い浮かべるだろう。当時、同社は Lexus LS400 や Bugatti EB110 に純正オーディオを提供し、「高級オーディオの代名詞」とまで称された。 その音作りの哲学は「原音再生」にあり、真の音を忠実に再現することを何よりも重視してきた。 Elite TWS700ANC は、そうしたNakamichiのDNAを現代技術と融合させたモデルである。
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IEMクラスのドライバー構成と同軸設計
一般的な単一ダイナミック型とは異なり、TWS700ANCは Knowles製BAドライバー と 10mmカスタムダイナミックドライバー を組み合わせたハイブリッド構成を採用。
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BAドライバーは高域の解像度を担い、ボーカルや楽器の繊細なディテールを鮮明に描く。
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ダイナミックドライバーは低域を支え、深みと臨場感のあるサウンドを形成する。
さらに特筆すべきは 完全同軸設計 で、2つのユニットを同一軸上に配置することで、位相ズレを徹底的に排除。これにより音像定位が自然で、ステージの空気感までもリアルに再現できる。
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最先端ワイヤレス技術
完全ワイヤレスとしての基本性能も抜かりない。TWS700ANCは Qualcomm QCC3071 チップを搭載し、Bluetooth 5.3 に対応。さらに Snapdragon Sound 認証も取得している。
この構成がもたらす利点は明確だ。
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aptX Adaptive により、シーンに応じて音質と遅延を自動的に最適化。
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将来的な LE Audio 規格にも対応し、拡張性が高い。
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接続の安定性にも優れ、壁越しでも10メートル程度なら音切れなく再生できる。
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ANCと外音取り込みのバランス
ノイズキャンセリングでは、6マイクアレイとアダプティブANC技術を組み合わせ、飛行機や地下鉄などの騒音を効果的に低減。さらに降圧感を抑えた自然なチューニングで、長時間使用でも疲れにくい。
外音取り込みモードでは、周囲の音を自然に取り入れられ、オフィスや街中でイヤホンを外すことなく安全に使える。
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バッテリーとデザイン
TWS700ANCのもう一つの強みが、圧倒的なバッテリー性能だ。
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イヤホン単体で最大約7時間再生可能。
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充電ケース併用で、総再生時間は驚異の 約120時間 に達する。
1日4時間の使用なら、およそ2週間は充電不要。長距離出張や旅行、集中作業においても圧倒的な安心感をもたらす。
デザイン面では Black / Blue / Ammonite(アンモナイト) の3色展開。特にAmmoniteカラーは光の角度で虹彩のように輝く独特の質感を持ち、 充電ケースにはPUレザーを採用し、手触りも高級感に溢れる。
ユーザーストーリー:多様なユーザーにとっての“理想解”
通勤・通学ユーザー
騒がしい車内でもANC機能により静かな空間を確保し、外音取り込みモードで安全性も両立。
音楽愛好家
BA+ダイナミックのハイブリッド構成と同軸設計により、ワイヤレスで自由に、有線でIEMクラスの高忠実度を体験できる。
ゲーマー・クリエイター
ワイヤレスではaptX Adaptiveによる低遅延、有線では完全ゼロレイテンシーで、ゲームや映像編集に最適。
ビジネスパーソン
マルチポイント接続でPCとスマホをシームレスに切り替え、6マイクアレイによる明瞭な通話と長時間駆動で、出張時も頼れるパートナーに。
業界的意義:一つのイヤホンが示す新たな潮流
TWS700ANCの登場は、単なる選択肢の拡大ではなく、イヤホン業界の方向性を変える出来事だ。
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単一シーンからマルチシーンへ:完全ワイヤレスはもはや“携帯オーディオ”にとどまらず、多様な場面に対応するオーディオソリューションへ進化。
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機能の積み上げから形態の再構築へ:ANCや長時間再生といった機能強化ではなく、「デュアルモード」という発想でプロダクトの枠組み自体を刷新。
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消費財からライフスタイルへ:イヤホンは単なるツールではなく、仕事・娯楽・移動、そして個性を表す日常の一部となった。
TWS700ANC はまさに「デュアルモード時代」の象徴的モデルであり、今後、多くのブランドがこの流れを追随するだろう。だが、Nakamichi はすでにその答えを示している。
結論:デュアルモードの未来は、すでに始まっている
完全ワイヤレスが歩んだ10年は、利便性と音質の間で揺れ続けた歴史でもある。Nakamichi Elite TWS700ANC は、その二律背反を“デュアルモード設計”で見事に解消した。
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ワイヤレスでは、快適・安定・ANC対応のフラッグシップTWSとして。
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有線では、高忠実度・ゼロレイテンシーのプロフェッショナルIEMとして。
それは単なる製品の進化ではなく、イヤホンというカテゴリーそのものの“アップデート”である。
高音質を追い求めるオーディオファン、利便性を重視する通勤ユーザー、効率を求めるビジネスパーソン、そして没入感を求めるゲーマーにとって——WS700ANC は多面的な理想を一つにした答えだ。
真のワイヤレスがデュアルモード時代へ突入した今、「高忠実度」と「携帯性」は、もはや二者択一ではない。









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